トップ > VPKで富士山頂ご来光撮影計画 目次 > EPILOGUE6:宝永山断念

 朝食が良い休息となり、「赤岩八合館」を出発。下山道に大砂走があるので、ゲイターを装着。須走口も、下山の八合目までは順調であった。油断はできない。
 やがて「砂走館」を通過。すぐに「わらじ館」へ到着。が、足に違和感が。嫌な予感がして足を見ると、ゲイターを留めるゴムが、両足同時に切れていた。昨日下ろしたばかりなのに。ゴムを外して、「わらじ館」に入る。金剛杖の焼印も、あとはここでコンプリート。早速立ち寄る。
「今、火を消してしまったので、すぐには無理です」
ゲイターのゴムは、下駄の鼻緒のような破壊力があるらしい。ダメ元で聞いてみたが、ゲイターのゴムも手に入らず。
 このまま、「わらじ館」は負の記憶として遺されるのかと思われた。しかし小屋のお姉さんが対応してくれ、火起こしの間、ゲイターのチェックをしてくれた。
「冬山じゃなくて良かったですね。ゲイターのフックを靴ひもに掛ければ、十分使えますよ」
まさかの神対応。ゲイターの付け替え、埋蔵金の話などをしていたら、金剛杖の焼印がコンプリートされて渡された。逆転ホームランで、「わらじ館」は良い思い出の場所となった。
 七合目の分岐から、いよいよ「大砂走」が始まる。昨年の大苦戦の反省から、下りの練習、金剛杖の入手など、対策を施して来た。いざ突入してみると、体が勝手に前に進むので、結構楽しい。山頂の看板に英語で「1歩3メートル」らしき文字が有ったので、スピードが出る。しかし、岩が多くてつまずきやすいため、スピードの出し過ぎには注意した。
 やがて岩も少なくなり、さっさと火山灰地を駆け下りる。程なく、次の目的地である「宝永山」の分岐らしき道を見付けた。しかし体が前傾しているせいか、標高差の無い宝永山が、200m以上高い丘のように見えた。しかも、宝永山は雲の中にあり、その姿を見せない。
 御殿場口を選んだ理由の一つは、宝永山から火口を見る事であった。しかし分厚い雲の中では、おそらく景色は真っ白であろう。空を見ると、次第に雲が増えつつあった。
「宝永山の火口は、次回プリンスルートから見よう」
また富士山に来る理由を見付けて、雷雲発生前に下山する事を選んだ。
 「大砂走」は、勢いに乗って走り続けるには、強靭な足腰とスタミナが必要なため、こまめに休憩を入れた。止まる時、ふかふかの火山灰は滑りやすかったが、金剛杖で支える事により、少し休憩が楽であった。
 昨年の須走口砂走では足を痛め、次々と抜かれていったが、今回の大砂走では、抜く事はあっても、抜かれる事はほとんど無かった。ただ、トレランランナーには、当たり前のごとく抜かされ続けた。
 次郎坊を過ぎると、「御殿場ルートも下りは楽なのでは?」と思え始めるが、やがて間違いに気付く。傾斜が緩やかになるので、スピードは出ないし、標高もなかなか下がらない。雲が多く、ゴールが見えない。ランドマークの二ツ塚も、ほとんど雲に隠れていた。
 足が痛み出し、「いつまで続くんだろう?」と思い始める。幸い、下双子山が姿を現し、ゴールまでそれほど遠くはないと、鼓舞する事ができた。
 ついに「大石茶屋まであと200m」の看板を見た時は、元気が出た。間もなく大石茶屋を目視し、空いている席にザックを下ろした。
 御殿場口新五合目から御殿場駅行きのバスの本数は、多くない。大石茶屋にはバスの時刻表があったので確認した。下山時刻10時半。次のバスは12時15分。しばらく、大石茶屋で休む事にした。
 レインウェアを脱ぎ、冬用厚手のシャツを脱いで仕舞い、代わりに昨日汗だくになったままの夏用薄手のシャツを取り出して、金剛杖に吊るして乾かした。そうこうしている内に、次々と登山者やトレランランナーが、大石茶屋に到着して来た。
 のどが渇いたが、二日間の水分補給は、ほとんどがスポーツドリンクだったので、正直飲み飽きてしまった。ふと見ると、山盛りのかき氷を食べている人がいる。私も欲しくなり、一つ頼んだ。今までで、一番美味しいかき氷に思えた。
 ふと金剛杖を見ると、あちこちに亀裂が入っている。今回の山行を成功させた、殊勲の証に見えた。
 11時半が過ぎ、大石茶屋を後にした。宝永山はついに、一度も姿を見せる事は無かった。これが唯一の心残りであったが、御殿場ルート往復成功は、大きな自信となった。
 大石茶屋から10分ほどで、バス停に到着した。待つ事30分、時間通りにバスが到着した。席には余裕があり、隣の席にザックを置く事ができた。
 そして定刻通りに御殿場駅に到着。昨年の須走口は駅まで遠かったため、ロマンスカーに間に合わなかったが、今回は間に合うはずであった。しかし、電光掲示板には御殿場線の表示しか無い。よく見ると、小田急線内事故のため、ロマンスカーの運行は取り止めになったとの事。次の電車まで時間がありすぎるし、これだと時間がかかり過ぎる。
 駅の東口に出ると、ちょうど新宿バスタ行きのバスが到着していた。乗務員さんに運賃を払い、乗る事ができた。ただ、金剛杖は置き場が無いため、周りの迷惑にならないように、自分で持つ事となった。
 高速バスもほぼ定刻通り、新宿駅に到着した。昨年と違い、足の痛みは筋肉痛だけのようである。充実感を覚え、家路に着いた。

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